来 歴


人間の知恵


外側が熟し
甘酸っぱい果実にまみれ
そのあとから
やっと姿をあらわす種子
かたい核に守られた
ういういしい生の形は
ここからはまだ見えない
「色のついた夢なんか
まだ一度だって見たことがない」
心をわけ合ってきた夫とも
全く別の夢を見ながら
固有の夜へ降りて行くのがいい
それぞれの領分に
完熟をもたらすためには
更に長い時間をかけねばなるまい

たそがれ
見える風景と見えない風景を
辛抱づよくわけ合っている
いかにも優しい自然の知恵
それなのに
人間の知恵は先ばかり急ぐ
夜明けとともに開く
新しい花一輪を渇望して
夢の中まで
腐った種子をまきに行こうとする

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